Q:手術後、4年半。化学療法を継続すべきか
57歳のときに膵臓がんの手術(膵頭十二指腸切除術)を受け、その後、4年半にわたり、ジェムザール(一般名塩酸ゲムシタビン)とTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)を併用した化学療法を受け続けています。今年の6月で手術後、満5年になるのを機に、化学療法をやめる選択肢もあると医師に言われました。白血球減少などの副作用の問題もあるためです。しかし、化学療法をやめることによる再発の心配もあり、副作用と再発のどちらを重く見るか、心が定まりません。
(神奈川県:男性62歳)
A:半年以上の長期投与のメリットはない
膵臓がんは見た目以上にがんが広がっていることが多いため、手術で膵臓のがんを取り除いても、目に見えないがん細胞が体の中に残っていて、再発する可能性が高い疾患です。そのため、治療成績の向上を目指して、手術に化学療法や放射線療法を組み合わせる治療(補助療法)が現在、積極的に試みられています。
それらの中でもジェムザールは、ドイツで行われた臨床研究で術後に使用すると再発までの期間を遅らせ、かつ延命効果を有することが証明されたため、現在は補助療法を行う際の標準薬に位置づけられています。現在は、さらに優れた治療効果を求めて、さまざまな補助療法の研究が行われており、ご相談された方が受けてこられたジェムザールとTS-1の併用療法も、期待されて試みられている治療法の1つです。
一方、今回のご質問である「膵臓がんの術後の補助化学療法はいつまで続けたらよいか」といった治療期間の問題に関しては、今のところ明確な答えが存在していません。しかし、先にご紹介したドイツの臨床研究では、ジェムザールの投与期間は半年間に限定されており、それ以外の有力な研究においても、補助化学療法の期間は大半が半年前後です。したがって、一般臨床においても、膵臓がんの術後は、補助化学療法を半年から長くても1年程度行い、明らかな再発を認めなければ、その後は経過観察を行うといった方法が広く用いられています。
膵臓がんは術後に約8割が再発することが知られていますが、再発のリスクは時間の経過とともに低下していきます。私たちの調査でも、膵臓がんの手術を受けた方の中で約半数の方が1年以内に再発しており、2年目までには約7割が再発していました。したがって、手術から2年以上経過すると再発の可能性は低くなり、さらに5年以上経過すると完治している可能性が高くなります。
ご相談者は術後、無再発の期間が4年以上続いているので、完治している可能性も十分に考えられます。もしがんが完治しているのであれば、補助化学療法を続けることは正常な細胞にダメージを与えているにすぎず、場合によっては、今後、重篤な副作用や不可逆的な障害を起こす危険性も秘めています。以上により、膵臓がんの術後に補助化学療法を行う際には、次の4点などを考慮する必要があります。
(1)半年以上の長期投与のメリットは示されていない
(2)化学療法の投与期間が長くなれば、正常細胞へのダメージも大きくなる
(3)時間の経過とともに再発の可能性は低くなる
(4)手術のみで完治している可能性もある
ご相談者は、検査で明らかな再発が認められないのであれば、主治医と相談の上、経過観察に切り替えてもよいのではないかと思います。
(2010年04月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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Q:膵管内乳頭粘液性腫瘍の治療法は?
検診で超音波検査を受けたところ、膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断されました。腫瘍が膵体尾部に何個かあると言われており、医師からは手術を勧められています。
インターネットで調べてみると、膵管内乳頭粘液性腫瘍には良性と悪性(膵臓がん)があるようですが、良性でも手術が必要なのでしょうか。また、手術以外でよい治療法はないのでしょうか。
(長野県:女性53歳)
A:タイプによって異なる
最近、超音波やCT(コンピュータ断層撮影)などの普及に伴い、検診や受診時に膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)を指摘される方が増えています。
膵管内乳頭粘液性腫瘍とは、膵臓にできる腫瘍の一種で、膵管(膵臓の管)にできた腫瘍が粘液を分泌するため、嚢胞(粘液が貯留した袋)ができたり膵管が拡張したりする疾患です。腫瘍ができる部位により、主膵管型、分枝型、混合型に分けられ、主膵管型や混合型は悪性(膵臓がん)の可能性が高いため、手術が勧められます。
一方、分枝型は良性のことが多く、治療を必要としないケースが大半を占めます。しかし中には悪性であったり、経過をみているうちに膵臓がんに変化したりすることがあるため、注意が必要です。
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今のところ、良性から悪性に進展することを予防するような治療薬はなく、また、悪性になった場合には、手術で摘出するしか完治させる方法はありません。
したがって、分枝型と診断された場合で、良性と判断された場合には定期的に経過観察を行い、悪性もしくは悪性化する可能性が高いと判断された場合は手術を行うのが原則です。
膵臓の腫瘍は生検などで組織を確認することが難しいため、良悪の判断を画像診断に頼らなければならず、その鑑別が困難な場合もあります。しかし、ひとたび悪性化すると膵臓がんは一般に進行が早いことから、疑わしい場合も手術の対象になります。
2005年には、これまでの知見に基づいた「国際診療ガイドライン」が公表され、分枝型であっても、嚢胞径が3センチを越えるもの、嚢胞の内部に隆起があるもの、主膵管が7ミリ以上に拡張しているものなどは悪性のリスクが高く、手術が勧められるとされました。
ご相談者の場合は、悪性のリスクが高いと主治医が判断し、手術を勧めたのではないかと思います。手術の必要性やリスク、経過観察の適否などについて納得がいくまでご相談されることをお勧めします。また、他の医療機関にセカンドオピニオンを求められるのもよいでしょう。
(2010年04月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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Q:親が膵臓がんの場合、子供が膵臓がんになる可能性は?
私の父親は去年、膵臓がんのために亡くなりました。親が膵臓がんになった場合、子供の膵臓がんの罹患率が高まることはあるでしょうか。
(富山県:男性31歳)
A:あまり心配する必要はない
膵臓がん患者さんの5〜10パーセントには第1近親者(親、兄弟、子)に膵臓がんの罹患者がおり、遺伝の関与が考えられています。
第1近親者に膵臓がんの罹患者がいる場合、その人が膵臓がんになるリスクは、2倍程度高まることが報告されています。その他、喫煙(2〜3倍のリスク)、糖尿病、肥満、高脂肪食、慢性膵炎などが膵臓がんのリスク要因として挙げられています。とはいえ、リスク要因はあくまでも膵臓がんになりやすい因子を示しただけで、これがあると必ず膵臓がんになるというわけではありませんから、神経質になる必要はありません。
遺伝的素因は変えられませんが、喫煙や肥満などのリスク因子は自分でコントロールすることが可能です。食生活や生活習慣に気をつけ、気になる症状が出たときは、すぐに見てもらえるかかりつけ医を持つとよいと思います。
(2010年04月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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Q:ステージ4bの膵臓がんに、未承認の抗がん剤は効くか?
ステージ4b(JPS分類)の膵体部がんで、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)単剤での治療を受けています。
インターネットで、世界的には、アバスチン(一般名ベバシズマブ)やアービタックス(一般名セツキシマブ)など、膵臓がんに対していろいろな抗がん剤が使われていることを知りました。もし効果があるなら、日本で承認されていなくても、個人輸入したいと思っています。
ステージ4bでジェムザール単剤での治療より大きな効果が期待できる治療法はあるでしょうか。アバスチンやアービタックスはどうでしょうか。
(埼玉県:男性57歳)
A:新しい抗がん剤=効果の高い抗がん剤とは限らない
ステージ4bの膵臓がんは手術でがんを完全に取り除くことが難しいため、抗がん剤による治療が行われています。抗がん剤にはさまざまな種類がありますが、膵臓がんに対しては現在、ジェムザールが標準治療とされています。標準治療とは、簡単にいえば、その時点で最も効果が高いと考えられている治療のことです。
ご指摘されたアバスチンやアービタックスは、分子標的薬と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤です。他の種類のがんでは、これらの薬剤の効果が大規模な臨床試験によって証明されており、日常診療で使用されているものもあります。
しかし、膵臓がんに関しては、これらの薬剤の延命効果は証明されておらず、世界的にも評価は定まっていません。新しい抗がん剤=効果の高い抗がん剤とは限らず、効果が得られないばかりか強い副作用に苦しむ可能性もある点で注意が必要です。
同じ分子標的薬でも、タルセバ(一般名エルロチニブ)は、ジェムザールとの併用で延命効果が示されており、膵臓がんに対する使用が米国では認められています(日本では膵臓がんに対して未承認)。しかし、生存期間の改善がそれほど大きくなかったことから、副作用の少ないジェムザール単剤療法が依然広く行われています。
嘔吐、悪寒"いいえ発熱"
ご質問された方は現在、標準治療のジェムザールを受けていらっしゃいますので、定期的に検査を受け、がんの悪化がなければ、この治療を続けることをお勧めします。未承認の薬剤を臨床試験以外の方法で使用することは、安全性の面でも問題があり、推奨できません。
(2009年11月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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Q:転移ある膵臓がん。具体的な抗がん剤の選択肢は?
62歳の母が、体重が減ったため病院を受診し、膵臓がんと診断されました。肺にも転移が見つかり、主治医からは抗がん剤の治療を勧められています。考えられる治療として、(1)ジェムザール単剤、(2)TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシル)単剤、(3)ジェムザールとTS-1の併用療法の3つが提示されました。どの治療を受けたらよいのか悩んでいます。
(東京都:男性32歳)
A:標準治療はジェムザール。TS-1は期待され、評価中
肺に転移があるため、ステージ4b(JPS分類)の膵臓がんと考えられます。上記で回答しましたように、ステージ4bの膵臓がんに対してはジェムザール単剤が現在、標準治療とされており、一般臨床の場で広く使用されています。
一方、今回提示されたTS-1は、我が国で開発された経口の抗がん剤です。胃がんなどに対して効果があることが以前から知られており、膵臓がんに対しても臨床試験でがんが小さくなる効果が認められたため、2006年から保険が適用されています。
また、ジェムザールにTS-1を併用する治療も積極的に試みられており、それぞれの単剤療法よりも高い奏効率(がんが縮小する割合)が報告されています。
膵臓がんは有効な治療が少なく、使用できる抗がん剤は限られているため、膵臓がんに対してTS-1の保険が適用されたことは大変喜ばしいことです。
しかし、それによって治療の選択肢が増え、TS-1をどのように使用していったらよいか適切に評価していく必要性が生まれました。そこで現在、切除ができない進行膵臓がんの方を対象にした「ジェムザール単剤」「TS-1単剤」「ジェムザールとTS-1併用」の大規模なランダム化比較試験が行われています。
この結果が出るまでは(3年以内には結果が報告されることが期待されています)、今回提示された3つの選択肢のいずれが最適な治療であるかを明確に回答することはできません。したがって、膵臓がんに対しては、現時点ではジェムザール単剤が標準治療であること、およびTS-1単剤や併用療法は期待されているがまだ評価中の治療であることを認識した上で、個々の治療のスケジュールや副作用などをよく考慮して治療を選択されることをお勧めします。
副作用の説明は主治医から受けていると思いますが、併用療法では単剤療法よりも、骨髄抑制(白血球や血小板の減少)などが強くなる可能性があります。また、ジェムザールと他の抗がん剤の併用療法の効果は、全身状態がよい人でないと期待できないという報告も最近されておりますので、全身状態があまりよくない場合は、無理せずジェムザール単剤を受けることをお勧めします。
(2009年11月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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Q:肝臓に再発。ラジオ波焼灼療法による治療は?
半年前に膵頭部がんと診断され、手術を受けました。手術後の経過は良好でしたが、先日、CT(コンピュータ断層撮影)の検査で肝臓に再発があることを知らされました。肝臓の転移は2カ所で、大きさはいずれも2センチ程度とのことです。主治医からは抗がん剤を勧められていますが、友人から肝臓がんにはラジオ波焼灼療法というよい治療があると聞きました。肝臓の再発に対してラジオ波焼灼療法はどうでしょうか。
(京都府:男性74歳)
A:膵臓がんの肝臓転移。ラジオ波焼灼療法は勧められない
ラジオ波焼灼療法は肝臓に特殊な針を刺して、肝臓の中にあるがんを熱で焼き殺す治療です。1回の治療で直径3センチ程度の円形に病変を焼灼することができるため、小さな肝臓がんに対する治療として急速に普及しています。
しかし、ここで注意しなければならないのは、肝臓がんには、肝臓から発生した原発性肝臓がんと、他の臓器に発生したがんが肝臓に転移した転移性肝臓がんがあることです。ラジオ波焼灼療法が有効であることが示され、日常診療で広く用いられているのは、原発性肝臓がん(肝細胞がん)であり、転移性肝臓がんに対するラジオ波焼灼療法の効果は今のところ明らかになっていません。
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原発性肝臓がんでなくても、大腸がんや神経内分泌がんなど、比較的ゆっくりと進行するタイプのがんが肝臓に転移・再発した場合は、肝臓のがんをコントロールすることで症状の緩和や延命効果が得られる可能性があり、肝切除やラジオ波焼灼療法が積極的に行われています。しかし膵臓がんの場合は、切除やラジオ波焼灼療法を行っても早期にまた再発を起こし、延命効果が得られない可能性が高いことから、これらの治療は一般的ではありません。とくに、膵頭部がんを切除された場合は、胆管の再建術を受けているため肝臓内の感染が起こりやすく、ラジオ波焼灼療法はお勧めできません。
主治医と相談の上、抗がん剤による治療をご検討されることをお勧めします。抗がん剤に関しては、Q1とQ2の回答をご参照ください。
(2009年11月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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Q:ジェムザールの治療回数が減らされることに。効果は?
72歳の母のことでご相談します。膵頭部に2センチのがんが見つかり切除しました。手術後の治療として、点滴でジェムザール(一般名塩酸ゲムシタビン)を受けたところ、白血球の値がかなり下がってしまいました。
1週間に1回、3週続けたら、1週休薬のペースでジェムザールを受ける予定でしたが、主治医から2週間に1回のペースに変更する旨の説明を受けました。ジェムザールの点滴の間隔を2週間に1回にしても、効果は変わらない(落ちない)のでしょうか。
(長崎県:女性47歳)
A:副作用が強い場合は、休薬や減量も考慮すべき
抗がん剤の使用量や投与方法は、臨床試験の結果などに基づいて定められています。ジェムザールを単独で使用する場合は、「体表面積1平方メートルあたり1000ミリグラムに相当する量のジェムザールを30分かけて点滴静注する。週1回の投与を3週連続し、4週目は休薬するサイクル(3投1休)を1コースとして繰り返す」方法が一般に行われています。しかし、抗がん剤には副作用があり、副作用の発現には個人差があるため、必ずしも予定どおり投与できるとは限りません。
ジェムザールの主な副作用は、白血球減少や血小板減少などの骨髄抑制と、悪心・嘔吐、食欲不振などの消化器症状です。それらの多くは一過性で、感染などを誘発する重篤な副作用は稀ですが、ジェムザールの投与当日にある程度以上(一般には、白血球数が1マイクロリットルあたり2000未満、もしくは血小板数が1マイクロリットルあたり7万未満)の骨髄抑制が認められた場合には、安全性を考慮し、骨髄機能が回復するまでジェムザールの投与を休止(延期)します。
ジェムザールを受けた患者さんの10〜20パーセント程度は、白血球数が1マイクロリットルあたり2000未満に低下することが報告されているため、予定された3投1休が受けられずに、2投1休(週1回の投与を2週連続し、3週目は休薬するサイクル)や1投1休(週1回の投与を隔週で行う方法)になる方がそれなりにいらっしゃるわけです。
副作用に問題がなければ、決められた投与量・投与方法を守り、一定期間あたりの抗がん剤の投与量を適切に保つことが推奨されます。しかし、副作用が強く出た場合は、無理せず休薬し(休薬すると、多くの場合、翌週には回復します)、安全性を保ちながら可能な範囲内で投与量を保つことが大切です。効果ばかりにとらわれて、重篤な副作用を起こしてしまっては元も子もありません。
実際の臨床の現場では、白血球減少などの副作用のために、ジェムザールを2投1休や1投1休で投与している方がいらっしゃいますが、3投1休で投与された方よりも、これらの方の治療効果が明らかに落ちるといった印象はありません。安易な休薬や減量は禁物ですが、リスクを冒してまで3投1休を遵守する必要性はなく、個々の患者さんの状態に合わせて、柔軟に投与量や投与方法を調整することが重要です。
(2009年05月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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Q:抗がん剤治療などでがんが縮小後、手術することは可能か
膵臓がんと診断されました。明らかな遠隔転移はないが、がんが血管の近くにあるため、手術はできないと主治医に言われました。今後、抗がん剤などの治療を受け、がんが縮小した場合、手術を受けられるようになる可能性はありますか。
(山形県:男性62歳)
A:可能なこともある。ただ、過大な期待はできない
膵臓がんを完治させる可能性がある治療は現在でも手術だけです。しかし、膵臓がんは早期発見が難しく、進行が早いため、8割近い患者さんは切除が困難な進行がんの状態で発見されます。
切除が困難とされる理由の多くは、肝転移などの遠隔転移です。大腸がんのように、たとえ遠隔転移があっても延命を期待して積極的に病変を取り除くがんもありますが、膵臓がんの場合は、遠隔転移を切除してもすぐに再発してしまうことが経験からわかっているため、遠隔転移例は通常、外科治療の対象となりません。
一方、ご相談者のように、明らかな遠隔転移は認められないものの、膵臓がん自体が進展している(多くは周囲主要動脈への浸潤)ため、切除が困難になる場合もあります。このような病態を局所進行膵臓がんといい、局所進行膵臓がんと診断された場合は、通常は完治が望めないため、延命や症状の緩和を目的に抗がん剤や放射線などによる治療が行われます。
しかし、抗がん剤や放射線治療が奏効してがんが著しく縮小した場合、切除不能の原因となっていた血管への浸潤が軽減または解消し、切除が可能な状態になることが稀にあり、これをダウンステージングと呼んでいます。
現実的には、がんが血管を全周性に取り囲むように進展している場合は、切除可能な状態までがんを縮小させることは難しく、ダウンステージングが期待できるのは「腫瘍が血管に接しているが、もう少し小さくなれば切除可能になる」といった切除・非切除の境界領域にある病変です。
もともと日本の外科医は、海外の外科医よりも積極的に膵臓がんの手術に取り組んでいるため、日本で切除不能と判定された膵臓がんが切除可能な状態までダウンステージングすることは、なかなか難しいのが現状です。また日本では、ダウンステージング後に切除を受けたケースの情報が限られているため、治療成績を明らかにしていくことも今後、必要でしょう。
以上をまとめると、局所進行膵臓がんであれば、抗がん剤などの治療で切除可能になることが稀にあります。しかし、膵臓がんの場合は、進行した状態で無理にがんを切除してもよい結果にならないこともあるため、過大な期待を手術にいだくことはお勧めできません。その時々で最適と思われる治療を、主治医とよく相談しながら選択することが大切です。
(2009年05月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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Q:父を膵臓がんで亡くした。早期発見できる方法はないのか
父が、膵臓がんを発見されてから、わずか2カ月で亡くなりました。55歳でした。
発見された時点で「ほとんど手遅れ」と医師に言われましたが、残念でなりません。膵臓がんを早期に発見できる方法はないのでしょうか。
(群馬県:男性26歳)
A:膵臓がんに特徴的な症状はないが、早期発見の方法も研究中
診断技術が進歩し、MD-CT(マルチスライスコンピューター断層撮影装置)や超音波内視鏡を用いれば、2センチに満たない小さな膵臓がんも指摘できるようになりました(2センチを超えないとわからない腫瘍もあります)。腫瘍が2センチ以下でリンパ節転移がない場合、切除することで50パーセント以上の方に完治を期待することができます。
しかし、この段階で患者さんのほとんどは自覚症状がないため、医療機関を受診せずに病状が進行してしまうことが多いのが現状です。また、腹痛や腰痛などが出現して医療機関を受診した後も、膵臓がんは特徴的な症状がないため、胃潰瘍や腰痛症などが疑われ、発見までにさらに時間がかかってしまうこともよくあります。
検診などを訪れる自覚症状のない方を対象に、早期膵臓がんを発見することができればよいのですが、現段階では、体への負担が少なく、感度が高い有効なスクリーニング方法は見つかっていません。また、膵臓がんは一般に進行が早く、完治かつ診断が可能な段階から完治不能な段階に至るまでの期間が他のがんよりも短い点も、早期発見が難しい理由の1つです。
膵臓がんの早期発見を行うために、がん細胞の特性を生かした能能画像診断法の開発や、膵臓がんの患者さんの血液に特異的に出現するタンパク質を調べる研究などが活発に研究されています。
今後、有効な検査方法が開発されることを私たち医師も期待しています。
(2009年05月号 がん相談/膵臓がん 回答者:上野秀樹さん 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医師)
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