「あら、遠藤さん。どうしたんですか?」
「どうしたんですかは、無いでしょう。僕は此処で少しでも鬼道さんの手伝いをするようにって見崎検事に言われているんです。」
「でも、遠藤さんって学生でしょう? 学校は?」
「単位が取れる程度には、ちゃんと行きますよ。あっ、朝食は済ませてきましたから、 遠慮せずに食べてください。」
「当たり前だ。自分の家の朝飯なんだから、お前に遠慮する必要は無い。」
「酷い言い方だな。少しは出来るって言う事を昨日は見せたでしょう。」
「ほんの少しな。」
「だけど、私たち、出かけるんだけど?」
「えっ、鬼道さんもですか? だって岡田代議士の資料は?」
「暇ならお前が此処で纏めているんだな。俺はレナの学校の教師なんだ。
朝は真面目に出勤しないとな。じゃあ、レナ。弁当は出来てるのか?」
「うん。ちゃんと二人分、作ってもらった。私がしたのは、サラダの茹でたブロッコリーを入れただけ。ごめんね。寝坊しちゃった。」
「良いさ。じゃあ、遠藤、又な。」
「えーっ、本当に行くんですか?」と情け無い声を出して「あの・・残り物、サラダとかで良いです。」と
お手伝いさんに言いながら「コーヒーで良いです。」と遠慮していない。
鬼道に持って来てもらった資料を山のように積み重ねて、「まったく・・」とブツブツ言いながらも
「凄いな、此処まで調べているんだ。」と感心もしていた。
レナは、鬼道と仲良く学校に行く訳にはいかない。
一応は、先生と生徒なのだ。
レナが真面目に学業に励んでいる間、鬼道は学校を抜け出して家に戻っていたようだ。
「何処に行ったのかまったく解らない先生ね。校長も何故、首にしないのかしら?」と
鬼道をどうも嫌っている保健室の先生が息巻いていた。
鬼道に言うと「うーん。多分、首は無理だね。」と簡単に言う。
「どうして? だって真面目に仕事をしないと、その内に首になるわよ。」
「真面目に仕事はしているさ。暇な時間に抜け出しているだけで、与えられた授業に関しては、ちゃんと生徒に教えている。
レナの教室にだって英語を教えに行っただろう?」
「それは、私のクラスだから真面目にやっているんだと思ったからよ。
本当は授業が無くても、学校の職員室に居なくちゃいけないんでしょう?」
「まあね。だけど、居なくなっても首には出来ないと思うよ。」
「随分と横柄な態度なのね。どうして?」
「どうしてって。そりゃ、あの学校が俺の所有だからさ。
レナが転校するって言った時、公立に行かれたら、少しやばいかなって思ったけど、
私立に行ったから、 直ぐに買収に走った。」
「まあ・・」
呆れたようなレナの顔があった。
呆れているのは、遠藤もそうだった。
昼間、ダイニングで資料を纏めていると、必ず女性が尋ねてきて「鬼道君は?」ってなるのだ。
仕事部屋からカメラを見ている鬼道が「好きな部屋へどうぞ。」と言って、
鬼道が息抜きみたいに仕事部屋から出てきて、女性の入った部屋へと消える。
そりゃ音も聞こえないし、何てこと無いのだが、ちらちらっとどうしたって遠藤は気にしながらその部屋を見ている。
で、鬼道は何でも無かったように、出てくるのだ。
女性が出てくるのは、やや遅い。
たまに女性の来るのが二人重なったり三人重なったりしているが、それでも変化は無い。
「はーっ」と遠藤はため息を付いた。
なぜ私は夜に二時間おきに目を覚ますん。
「ねえ、鬼道さん。僕も貴方の仕事部屋に入る訳には行きませんか?
此処にいて、必ず、あら貴方しかいないのって聞かれて、鬼道君はって言われて、」と愚痴を言い始めた。
「俺の部屋? 俺の部屋には誰も入れないよ。まあ、唯一、入れるのはレナだけだ。
もっともレナは、あの部屋には興味は無いみたいだけどな。」
「入れない? 入れ無い事は無いでしょう。」
「入れないさ。エレベーターにしたって俺しか乗れない。他の奴らがこの一階部分から 上がっていったのを見たことがあるか?」
「それじゃあ・・それじゃあ、解りました。階段を使います。階段は、あるんですから、階段で上がります。
そして貴方の仕事部屋へと入ります。そこで仕事をします。貴方が運んでくる資料を纏めているだけじゃ面白くありません。」
「へえ・・階段でね。上がれるなら上がってくるんだな。」と鬼道は笑って自室へとエレベーターを使って戻った。
遠藤は「ふん。何処のビルにだって階段は必要なんだ。階段でほんの数段上がれば、二階なんだ。」と鼻息が荒い。
しかし、しばらくして「何でだー!」と喚いていた。
「何でだ? 何でこの二階に行く階段が無いんだ?」とブツブツ言っている。
「おい、遠藤、その謎が解けたら、俺の仕事部屋から一番、遠い部屋を貸してやるよ。」と鬼道が資料をどっさりと持って現れた。
「解りました。謎を解きますからね。」
「ああ。永遠に待つわけにはいかないからな。そうだな、次の女が現れるまでがタイムリミットだな。」と鬼道がにやりと笑った。
「解りました、勝負です。」
遠藤はビルの周りから、ビルにある階段を駆けずり回っていた。
はーはー言いながら走り回っていると「遠藤君、どうしたの?」と冴子の声だ。
「ああ・・見崎検事。ビルに入るんですか? ああ・・もうちょっと待ってください。
もうちょっとなんですから・・」と情け無い声を出した。
「何、言っているのよ。私、少し怒っているのよ。鬼道は、何処?」
「何を怒っているんです? 岡田代議士の事なら、あの程度で充分でしょう? もっと凄いスキャンダルもあるし、次次ですよ。
息子の殺人示唆のような事も暴いたし、自分が高校生の時に起こした女性問題の捨て台詞みたいな事まで週刊誌で持ちきりでしょう?」
「違うわよ。鬼ったら、岡田代議士にはそれでも良いけど、あのヤクザに何をしたと思う?」
「やくざって、あの、首を絞められていた氷室って言う奴のことですか?」
「ええ、そうよ。それに親分の林に丸山って言う奴もね。」
「何って。だって鬼道さん、高校の先生をして、昼間は、ちょっと此処に戻って来て、
まあ、仕事したり女性と遊んだりしていますけど、何処にも行っていませんよ。」
「何処にも行っていない? そんな訳無いでしょう。あの病院送りになった氷室なんか、最初、病院は否だ。
刑務所に入れてくれって泣きついてきたのよ。解る?」
「はあ・・」
「はあ、じゃないわ。挙句に拘置所に入っても、泣き出すし、その内に精神鑑定よ。
正常値が出る訳無いわ。まったく、どんな悪戯をしたのかしら。」
怒る冴子に「仕方ないだろう、あいつらの悪事を暴いたって、あいつらがギャフンと言う訳じゃ無い。
それにレナを攫ってどんな事をしようとしていたかなんて、あいつらの口から言わせたら、もっとレナが傷つく。
俺がレナに嘘を付けないから、レナは少しは解っているけど、それでもフィルターを掛けて言ったつもりだ。
それだってショックなんだから、これ以上、変な証言をしてもらいたくない。」と呆気らかんとして言ってのけた。
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「変な証言? 変な証言は無いでしょう。それこそが真実よ。真実。
レナちゃんを誘拐して、岡田代議士は、挙句には、挙句にはそれこそ、」と言いかけて止めた。
ため息を付いて「どんな悪戯をしたの?」と聞いた。
「別に大した事は、してないさ。夢じゃなくて、何処にでも現れて首を絞めてやるぞって脅したのさ。」
「毎日なの?」
「毎日? 毎日なんて、そんな暇な事はしてない。こう見えても忙しいんだぜ。
次は衛星を飛ばすためのロケットの設計に車の改良やヘリの改良もしなくちゃいけないしな。
夏休みには観光旅行へ行く計画も立てなくちゃいけないんだ。」
「毎日脅さないで、どうしてあの荒くれ者達が泣き出す程、怯えるのよ。鬼が来る、鬼が来るって震えているのよ。」
「簡単な事さ。一回で良いんだ。一回、そう言って、帰る、帰る時にトイレのトイレットペーパーにでも鬼って言う文字を書いて置くだけさ。
針のようなペンで突き刺すように 文字を書く。毎日、何度か使っていると文字が出てくる。
そう。まるで何度もそこにやって来ているように錯覚する。
簡単な事さ。部屋の夷たる所に鬼って言う文字を隠しておくのさ。
マジックと同じだね。何時も見ていたのに、気がつかず、ある日、気が付くんだ。
そして、又、あいつが、鬼がやって来たって自分で自分を追い詰めているだけさ。
レナに約束したからな。殺人を起こさないように理性をもってやっているだけさ。
本当は首を絞めたいくらいなのにな。あいつらは、殺されても良い程の事をレナにしたんだ。
そして、やろうとしていた。」
「あの・・あの・・僕、一つ、聞いて良いですか?」
「何だ?」
「あの別荘で鬼道さん、クローゼットから抜け出ましたよね。だけど、冴子さんも岡田さんも気が付かなかった。
そりゃ岡田さんは、後ろを向いていた事もあったけど、冴子さんは、ベットに寝転がり、岡田さんの顔を見て話をしていたんです。
鬼道さんに気が付かない訳は無い。何に何の反応も示さなかった。
それに後で聞いても、鬼道さんが出て行ったのに気が付かなかったと言うんです。
僕はあれが不思議でならない。僕は鬼道さんが出て行って、扉を開けて、隣の部屋へ行ったのを見ているんです。」
「ああ、あれか。あれだって簡単な事さ。人間には視野がある。だけど、死角って言うのが存在するんだ。
見えている筈なのに見えない点と言うのがあるんだ。何かに没頭していたら余計に� ��経はそちらには行かない。簡単な事さ。
俺が気配を完全に消す必要はあるけどな。
それより、お前、タイムリミットだな。冴子が来た。二階へ上がる階段が見つからないだろう? 二階へは行けないんだ。」
鬼道の言葉にがっくりとうな垂れている。
「何処に隠してあるんです? それも死角ですか?」
「死角?」
鬼道は大きな声で笑った。
「最初から階段は存在しないんだ。有りもし無い物を探したって、見つかる訳が無い。」
「そんな・・そんな筈は無いでしょう。ビルの内側に、いえ、外側に見えないように非常階段がある。
あれで上まで登りました。何度も登って、階段の数だって数えたんです。」
「そりゃご苦労だな。数を数えて、ちゃんと割ったか? 割ったら足りなかっただろう?」
「ええ。足りませんでした。まったく足りない。計算違いかと思って、何度も登りました。」
「小学生の方が謎を解きそうなほど、簡単なのにな。」
鬼道の言葉に冴子が「地形なのね?」と呟いた。
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「地形?」
「そう。正しく地形さ。駐車場は地下にある。地下にあるが、玄関ホールの横の車の入り口からは地下一階としか思えない。
だけど、ビルの裏側に回るとこのビルが どんな地形で立っているかが解る。
土砂に埋もれる事なんて心配も無い。最初から裏側は埋まっているからだ。
此処の俺の仕事部屋のある階は、丁度、裏側では一階なんだ。
だから、階段は必要無い。非常口さえあれば充分。遠藤、残念だったな。」
鬼道の笑いに「くそっ。」と言いながら「でも地下の秘密は解りました。」と言った。
「へえ地下に秘密があるの?」
冴子も興味心身だ。
「ええ。地下の駐車場のスペースが狭いんです。
ビルの大きさで、そのまま地下は車しか止めれないようになっているのに、僅か車が10台程度しか止めれないんです。
スプリンクラーの設置や色んな配管が天井を走っているみたいに、天井も厚いんです。 何か謎が有ります。」
「何だ、秘密が解ったと言うから、解ったのかと思ったのに、やっぱり謎なのか。」
「そんな・・謎があるって解っただけでも誉めてくださいよ。階段を何往復したと思っているんです。
普通なら体力の消耗で考えなんて閃きませんよ。それに妙な事にも気が付きました。
この部屋と二階、何処にも窓が無いんです。地下の駐車場はコンクリで囲まれているから窓が無くても当たり前だけど。
このダイニングやお風呂、、全ての小部屋。 そしてそこから続く二階の貴方の部屋のある1号室部分に窓が無いんです。
他の2号室や3号室には窓があるのに。そして、やっぱり部屋の大きさのスペースが小さいんです。
1号室の二階部分の鬼道さんの部屋の大きさは解りませんが、
この僕らが居る一階部分もビルの大きさから見ると、スペースが小さいんです。」
笑っている鬼道に「何よ。ちゃんと教えなさいよ。」と冴子が睨む。
「別に何の不思議も無いさ。核シェルターになっているだけさ。」
「核シェルターですか?」
「ああそうさ。一番、楽だろ? 地下に造ってコンクリで壁を厚くし、入り口の駐車場のシャッターを閉めれば万全。
確か、何処かの駐車場にもそう言う造りをしている所があっただろう?」
「でも、核シェルターと言うのは、地下の駐車場の事なんじゃないんですか?」
「まさか、俺の仕事部屋はコンピュターが搭載されていて、このビルの一番の要なんだ。
そこも当然、シェルターとして使えなきゃ困るだろ?
この間、冴子と一緒に始めて入った時、気が付かなかったのか?
あのフロアも少し狭いと言う事に。壁が厚い。そして天井もな。
このビルは、一階の上に又、ビルが立っているような造りなんだ。
同じビルなのに、一階部分から下と上とがはっきりと分かれている。
二台のエレベーターも二階の壁になる。より厚く、頑丈にする為にね。
そして、そこからこの部屋へと入れるように収納してある小さい階段が出せるようになっている。
1号室と地下駐車場で一つの核シェルターになっているんだ。
コンクリの壁ばかりのシェルターなんて面白く無いだろう。
シェルターは、最初は身の安全の為に逃げ込むものだが、後は、どう如何に精神を崩さず生き残れるかが大事なんだ。」
「電気や水はどうするんです?
幾ら精神がって言ったって、核が存在したらコンピュターを使う電源だって、それに精神の為のお風呂だって飲料以外の水が必要でしょう?」
もうこうなったら、ヤケクソのように遠藤は質問し始めた。
「地熱とかがあるだろう? 地下水も、ろ過する装置だってあるし、空気清浄機だって、シェルターなんだから、当然だろ?」
まるで要塞のようなビルだ。
鬼道に「此処って二人の家なんですよね?」と遠藤は聞いた。
「ああ、そうだよ。だけど、俺、実際、家ってどう言うものなのか解らないんだ。だから取り合えず造った。
レナと暮らすために安全で誰にも邪魔をされない家さ。」
鬼道は家と言う物が良く解らないのだ。
家族が集う家と言う物が小さい時から存在していなかった為なのだ。
「そうなんですか? 何人収容ですか?」
「何人? 何人って二人さ。」
「二人? 二人って・・誰と誰? ああ、誰かは解ります。言わなくても解りますが、備蓄はそれでは少ないのですか?」
「まあ、二人で五十年ってとこかな?」
「二人で五十年? 何で二人で五十年なんですか? どうして他の人は?」
「他の人が居るのか?」
「居るのかって・・」
遠藤が唖然とした顔を見せ「他の人も要りますよ。レナさんの両親はどうするんです。
彼女の両親を放っておいたら、レナさん、泣きますよ。」と言った。
「そうか・・そうすると、四人で二十五年か・・もう少し何とかするかな・・」と頭を捻っている。
「後、二人は要るでしょう。」
「後、二人?」
「そう。僕と冴子さんです。」
鼻息の荒い遠藤だ。
「何でそこでお前と冴子が入る?」
「良いですか、鬼道さん。聖書でもアダムとイブから始まっていますが、そうすると行く行くは近親婚になるんです。
まともな子供が出来ません。」
「訳の解らない難癖だな。俺とレナの間に生まれた子供がどうしてお前のような奴の子供と一緒にならなきゃならんのだ。
まして、まだレナは16歳だ。子供を産むには早すぎる。」
「核シェルターにこもる頃には、大きく成っているかもしれないでしょう。」
遠藤と鬼道の論争に「何を馬鹿な事ばっかり言っているのよ。もっとまともな論争が出来ないの。呆れて物が言えないわ。
兎に角、鬼、良い事、やたらと人の夢に出てこないの。良いわね。」と叱るように鬼道に迫る。
「ああ。解ったよ。俺が夢に出るのは、レナの所だけで充分だ。夢の中でも外でもな。」
天才的なそして野生的な男を呆れたように二人の男女は見ていた。
「ただいま〜」と明るい声が聞こえて、直ぐにその天才的で野生的な男は、声の主の元へと駆け出して行った。
鬼道が求めていた家族がそこに居る。
鬼道を心から愛してくれている者が居るのだ。
どんなに愛を求めても、どんなに愛しても、愛され� ��かった鬼が始めて愛を知った唯一無変の存在がそこに居た。
これからが鬼道の人生だと思うほどの存在が居た。
その明るい声の主の元へと駆けて行った。
鬼道も駆け出して行く姿は、明るく優しさに溢れた笑顔だった。
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